「平成21年度都立高等学校等入学者選抜の日程について」が公表された。推薦入試検査実施日は今年度と同じ1月27日。合格発表日は1日遅い2月2日だが、今年がうるう年なので期間は変わっていない。願書受付日が1月23日から1月22日へと1日だけ早まった。昨年までは24日だったのだが、今年度は23日に変更されたので、2年続いたことになる。
1日程度の変更はさして問題にならないようにも見えるが、わざわざ変更する必要があるのか?という疑問も浮かぶ。願書受付日が変更になったところでさほど問題にならないのでは?と思われるだろうが、実はそうとも言い切れない。今回の日程の前倒しは私立の入試日程が大きく変わる可能性を含んでいる。
公立併願者向けの推薦入試を巡る経緯とは?
この10年くらいの間に高校入試を体験している方はおわかりのことだと思われるが、全くご存じない方のために私立高校の推薦入試について振り返っておこう。
B推薦の登場から埼玉での定着まで
首都圏の高校入試は都県によって制度が異なる。そのため、隣接都県の私立高校を受験しようとすると選抜方法や条件が変わってしまう。その最たる例がB推薦だ。
B推薦とは、公立高校を第一志望とする受験生を対象にした私立の推薦制度のことで、私立高校第一志望の受験生対象の推薦をA推薦と呼び区別している。中には私立との併願でも可とするC推薦を実施しているところもある。
元々、推薦入試という制度は合格すれば入学する、という大前提があるのだから、「B推薦」という入試はおかしい、という考え方も存在する。しかし、埼玉の私立高校で始まったB推薦は瞬く間に広まった。推薦入試は一般入試よりも先に実施されているため、早めに合格が欲しい受験生が支持したためだ。人気が集まれば私立高校もせざるを得ず、理よりも実が勝り、埼玉県内私立のほとんどで定着した。
東京に波及するB推薦
一方、埼玉寄りの東京の私立高校では埼玉からの受験生が減ってしまった。東京にはB推薦なるものは存在せず、認められてもいない。公立を併願する埼玉の受験生は早めに合格を確保できる県内私立に流れることになる。そこで、都内私立でも埼玉県在住の受験生にはB推薦を認めよう、ということになった。「埼玉対応」である。埼玉からの受験生がいる都内私立では「東京在住向け」「埼玉在住向け」と別々に説明をするようになった。地域によって制度が違うため、条件が変わってしまうからだ。
しかし、同じ公立第一志望でも埼玉の生徒なら1月中に滑り止めの私立に合格できるのに、都内生は2月の一般入試まで対応しない、というのも受験生側からすれば不公平感が募る。そこで、都内生でも出願されれば埼玉県生と同じ対応をしますよ、という都内私立が現れた。都内では制度上認められてはいないことだが、実施されれば人気を集める。都県境から問題は都内にシフトすることになった。
もとより少子化は続いている。募集定員を充たせない私立高校も存在する。正式に認められていない制度を設けて生徒を集めるのは不公平だ、という募集する学校の立場からの意見もある。一部の公立中学校長会から反発する声も上がった。しかし、多くの私立高校が入試広報に力を注ぐ中、受験生の支持を得られるものなら導入せざるを得ない。
教育制度の変化と推薦制度
「推薦入試」といっても、埼玉の場合、調査書の内容だけで合格が決まるわけではない。適性検査という学力試験を行い得点が基準に達していなければ不合格とする「入試」をほとんどの学校が実施している。「入試の前倒し」であって、「推薦」入試ではない。現に埼玉では「推薦入試」は「前期入試」に名称を変更している。
一方、東京では「推薦入試」での学力検査は認めていない。調査書と面接、作文のいずれかもしくはすべてによる選抜が原則だ。
ところが、「ゆとり教育」の開始と共に絶対評価が導入されてしまう。それまでの相対評価より調査書の信頼性が薄くなってしまった。推薦入試であっても調査書以外に学力を客観的に判断する材料の必要性が高まってくる。あてにならない「絶対評価」より「適性検査」を導入したほうが入試の公平性を保てる、と考える私立が都内でも登場してきた。
ここ数年の私立高校入試では、全体的な制度上の変更はないものの、推薦制度に関しては各校の判断に委ねる、といった感が強い。
■こんなに違う東京・埼玉の私立高校推薦入試 制度比較
| 東京 | 埼玉 | |
| 推薦入試 | 名 称 | 前期入試 |
| 原則として不可 | 公立との併願(B推薦) | 可 |
| 調査書、面接、作文 | 選抜方法 | 調査書、適性検査、面接、作文 |
| 調査書の内申基準を越えていれば合格が原則 | 合否判定 | 調査書内容が内申基準を越えていても適性検査の結果によっては不合格になる |
| 1月22日 | 入試解禁日 | 1月22日 |
都立入試出願日と私立推薦入試日との重複がもたらすものは?
原則と現実
このほど発表された2009年度の都立高校推薦入試出願日は1月22日。私立高校推薦入試解禁日と同じ日だ。都立高校では受験生本人が志望校に出願するきまりになっている上に出願受付は1日だけ。つまり、出願日に私立を受験することは出来ないことになる。
それでも東京では原則としてB推薦が認められていないので、表面上は何の問題もない。公立第一志望者は出願、私立第一志望者は推薦入試の受験をする日、と日程を集中させたほうが潰される公立中学の授業時間も減っていい、とも言えよう。
が、実際には、22日にしか推薦入試を行わない私立高校のB推薦を都立志願者は受験できなくなる。入試制度上の筋は通るが、受験生の選択の幅が減り、私立高校が受験生を減らすことになる。募集する側の不公平感は緩和されるが、受験生にとっては逆になる。
多くの都内私立高校では推薦入試解禁日の22日かその翌日の23日に入試を行っている。都立の出願日が同じ日になることはなかったのだが、今春は23日となり、一部の私立推薦入試と重なった。23日が入試の私立では日程を増やすかずらすかして対応したが、一部の私立では都内生についてのB推薦が成立できなくなったところもあった。
昨年と日程が変わらなければ起こる皮肉な状況
今春、都内で公立との併願可能な推薦制度を1月中に実施した高校は100を超える。この中には原則として都外生向け、と断っているところも含まれる。その多くが入試解禁初日の22日に推薦入試を行っていて、22日1日だけ推薦入試を実施したのはおよそ60校もあった。もし、これらの私立が昨年と同じ入試日程で推薦入試を実施するなら、B推薦は激減することになるだろう。
実際にそうなることは考えにくく、おそらく多くの都内私立では22日の他に入試日を設けるなどして対応していくことが予想される。一方、埼玉の私立高校だが、こちらは推薦入試を実施する学校のほとんどが入試日を複数回設定している。制度上、今春入試までは受験できたコースや定員枠に変化はあるかもしれないが、公立志望者が都内から埼玉の私立を受験できないというケースはほとんどない。つまり、都内私立でB推薦が受験できなくなれば1月中に私立合格の欲しい受験生は埼玉に流れる可能性も出てくる。実際には、そう多くはないかもしれないが、都立の入試日程変更が都内の私立高校に何とも皮肉な結果をもたらすことになるかもしれない。
入試日程に注目しよう
まだ部活動を引退していない中学3年生なら高校入試日程について考えていなくても当たり前だが、実は各校のホームページでは既に次年度入試日程について公表しているところもある。しかし、来春入試に関しては、これまで見てきたように日程を巡る駆け引きが今後展開されそうな気配がある。
都立の推薦入試の出願日が1月22日になった真の理由はわからないが、都内私立は対応を迫られている。もちろん一般入試が受験できなくなるわけではないので、B推薦にしがみつかなければならない理由もないのだが、使えるものなら利用しない手もあるまい。
昨年までとは違った入試日程がこれから明らかになっていく可能性が高いので、情報収集に努めよう。残念ながら市販の高校受験案内では限界がある。受験情報誌やインターネットの活用を勧めたい。詳細が明らかになれば、「まなび倶楽部」でも紹介していくので、注目していただきたい。


2008年6月 5日 00:00












